研究概要 |
すでに出来あがっている「アルハンゲリスク福音書」本文につき,分担して再チェックを行なった。またとりおえた本文語彙総索引用カードを岩井の許に集結させたが,再点検とアルファベット順への並びかえには至っていない。ジュコフスカヤらの「アルハンゲリスク福音書」活字翻刻本が1997年5月に出版され,その本文を検討することが余儀なくされたからである。ジュコフスカヤらの本文は,結論をいえば,細部において学術研究の底本としては不適格である。もし使うのであれば常に1912年写真複製版の参照が要求される。ジュコフスカヤらの本文中,1行が脱落し(原本29-8〜),短い単語例えば〈И〉は18ヶ所ほど,〈Ж∈〉は7ヶ所ほどで脱落している。文字の誤りも多い(Ъ/∈/〓/,〓/〓/а,ъ/ь)の誤りもめだつ。44-3ИапИН〓ИТЕは正しくはИапЧ〓ИТЕ,39-V9ЖЪ〓ЖЪИИКЪは正しくは〓Ъ〓ЖБNИКЪ。この2つは極端な例。с〓を動詞と分かち書きせず不適切である。また99v-14пО3Nа〓ИはпO3Nа 〓пと,12V-13ВБРОУ〓はВБРОУ〓と,112v-10пОВИВБはпОВИ ВБとそれぞれ2語に読むべきである。われわれの作業においては多文献とのいっそうの比較を行なったところ,「アルハンゲリ福音書」はその前半と後半で底本の違いがあるものの,どちらも単なる機械的写しではなく,いわば編集されたものであることが想定され,さらにどちらの部分においても古代ロシア文語風に改良されたとみられる痕跡を有することが明らかにされた。従来の研究のように前後半の差異を協調するばかりでなく,この2つを全体として見た場合共通している事柄として上記は認識されるべきである。語彙の観点からは「アルハンゲリスク福音書」本文は,時には東ブルガリア系の底本から離れてOCS最初期以来の豊富な蓄積を巧みに利用して編集されたと見ることができる。そしてその手法と綴り等々の上に古代ロシア文語の萌芽の最初期を認めることができる。
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