イントネーションによって表現形式のあいまいさが解消される文末形式として、「だろう/でしょう」と「じゃない/じゃないですか」を取り上げ、これらの文末表現の実際の使用状況を把握するために、TVの対話番組4本と独話番組1本を録画した。 その結果、番組によって用例の分布に大きな偏りが見られた。ひとつは談話の種類による偏りで、独話や対話でも独話に準じるような解説的な番組ではでは、聞き手に同意を求める「でしょう」や「じゃない」は使用されていない。もうひとつは待遇度による偏りである。これには言語形式の待遇度と言語行動の待遇度があり、丁寧な対話では待遇の低い形式ばかりでなく、相手に同意を求めること自体が避けられている。「だろう」「じゃない」ばかりでなく「じゃないですか」も使用されない。 資料中の文末に現れる「でしょう・だろう」、「じゃない・じゃないか・じゃないですか」のピッチ・カーブを分析した。「でしょう」は文末でピッチが下降するものとしない(上昇を含む)ものに大別でき、下降しないものは<念押し>の用法に対応する傾向が見られた。文末で上昇する場合、上昇の程度を左右する条件はあきらかでない。上昇調のものは、最後の母音が短く発音される傾向があるが、下降調でも短いものもあり、母音の長短は用法の違いに対応しているわけではない。 それに対して「じゃない」類が下降調で発話されたの場合、否定の助動詞と<念押し>の用法は文末の自然下降と重なりはっきりとしたピッチの差を示していない。また、<念押し>と解釈できる「じゃないですか」が上昇調で発話しされた例もあり、イントネーションが用法を決定しているとはいえない。
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