世俗文献に関わる成果は、近隣の諸言語の資料を照会した慎重な取り扱いを要するため、さらに一定の時間を要する見込みである。一方、研究代表者や研究代表者がその驥尾に付している一連の研究者の手になる研究蓄積を活用し得る仏教文献に関しては、今回の研究によって得られた知見を十二分に活かして成果を得ることができた。そのうちのいくつかに関しては、既に昨年度の実績報告書でも予告したとおりである。すなわち、Zentralasiatische Studien 26には『法華経』の蒙古語訳における外来形式の導入経路を検討する過程で得られた知見が公にされ、また、Eurasian Studies Yearbook 68には、『宝網経』の蒙古語訳における擬ウイグル形式の捏造を取り上げた研究が掲載され、さらに平成7年8月に川崎市で開催された第38回国際アルタイ学会で発表した蒙古語訳『牛首山授記経』に関わる研究も、同学会のプロシ-ディングスに掲載されている。これら一連の、今回の研究補助金にもとづく成果を援用しつつ、世俗文献をも含めた今後の研究の方向性は、今春発行の『愛媛大学人文学会創立20周年記念論集』で公にされるはこびとなっている。また、『牛首山授記経』に関しては、今回の補助にかかる研究を通じて校訂テキストとその日本語訳が完成に至ったため、公刊すべく科研費補助金の研究成果公開促進費の交付を申請している。なお、今年度の研究成果に関しては、今夏ブダペスト市で開催予定の第30回国際アジア・北アフリカ人文学者会議で発表する所存である。
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