研究概要 |
先古典式モンゴル文語資料のうち,モンゴル語古訳本『孝経』の研究を行ない,次のような知見を得た。 1.『孝経』の正書法の特徴 (1)語中,および接尾辞頭におけるtawとdalethの字形の書き分けに関して,「古典式モンゴル文語」の正書法の規範とは全く別の書き分け規則が存在する。接尾辞頭では「形態素による書き分け」が,語中ではそれと同時に「後続する字形との関係による書き分け」が行われている。 (2)語末におけるa,e,n,ng,d,gの文字に垂直に下にのびる字形と,右水平方向にのびる字形の2種類があり,これらは完全にスペースの有無によって書き分けられている。この字形の差異が「時代的な違い」を反映するという従来の見解は再考を要する。 (3)語中におけるcに「古典式のC」「古典式のJ」の2種類の字形があり,これらはそれに先行する文字の種類によって書き分けられている傾向がある。これらの字形の違いが,古典式から生じたという見解についても再考を要する。 これらの知見については,「日本モンゴル学会1995年度秋季大会」(愛知大学)で研究発表をおこない,また「モンゴル語古訳本『孝経』における正書法上の一特徴」と題する論文を,『清格爾泰先生研究活動50年記念論文集』に寄稿した(1996年に中国で公刊予定)。 2.KWIC索引の作成 計算機処理のために『孝経』のモンゴル語本文を電子化テキストとして入力し,すべての単語に語幹と文法的接尾辞の境界タグを付ける作業を完了した。これに基づいて,本文に現れるすべての語彙,および文法的接尾辞の文脈付き索引(KWIC)を作製した。この成果をもって次年度の研究を継続する。
|