中国延辺地方の朝鮮語(以下、「延辺朝鮮語」と称する)における日本語系借用語使用状況は、韓国における状況と以下の点で異なることが明らかになった。 1.概して、韓国の朝鮮語での方が数多くの日本語系借用語彙が用いられている。これは、主に日本語との接触の様相に相違があったという歴史的要因に起因している。 2.日常的に用いられる語彙リストに相違点が見られる。例えば、延辺朝鮮語では「メガネ、包帯、千切り」などが多用される一方、韓国で多用される「株式、見当、新しい」などは延辺朝鮮語では用いられない。こうした現象の要因分析は今後の課題である。 2.延辺朝鮮語では、「口紅、味の素、缶詰」などの語彙に見られるように、日本語系借用語が「漢語」に置き替わる様相さえ見せている。日本語系借用語を朝鮮語の置き替え語彙で醇化する作業は、韓国での状況に比べ、延辺朝鮮語では「漢語」からの干渉によって、スムーズには進まない状況を呈している。 3.日本語系借用語に対する言語意識においては、韓国では排斥の論理が強く働いている。一方、延辺では「方言」扱いをする傾向が強い。これは「漢語」とのバイリンガリズム状況下にある延辺朝鮮語が、異言語=「漢語」からの言語干渉に日常的に晒されていることから生み出された言語意識であり、オノリンガル社会である韓国における言語意識とは異なる様相を示している。 朝鮮語における日本語系借用語をより全体的に捉えるためには、植民地時代から今日に至るまで借用されたことのある日本語語彙のリストを整理し、その語彙リストに見られる特徴を明らかにする作業を行わなければならない考えている。このための基礎作業として、植民地時代から今日に至るまでの借用語彙リストの作成を試みた。 在日朝鮮人の朝鮮語における日本語系借用語についての研究は未だ進行中にある。更に研究を進め、将来、その研究成果を提示したく思う。
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