1(1)『日本児童文学』について、1961-64年の4年間に刊行された号を逐次調査したところ、「リアリズム」と「ファンタジ-」の二つのジャンル意識が明確化する過程がみてとれた。また全体的に「フィクション」への意識が強調されている点も注目される。なお下記の結果も得られた。 (2)マス・メディアの発達に伴い、活字メディア以外のテレビ番組、週刊マンガ誌が生活に浸透してきた。 (3)高山毅の死後、神宮輝夫・横谷輝ら若手評論家が台頭、「リアリズム」への言及をなすが、その一方西本鶏介の「アンチ・リアリズム」論も生まれ、「リアリズム」と「ロマンティシズム」の関係についても意見の対立を見た。 (4)スミス『児童文学論』の翻訳が影響を与える一方、神宮や猪熊葉子ら英米児童文学の専門家はその受容に慎重な姿勢を見せ、一般の動向と専門家との考え方の乖離を思わせる。 2(1)この時期、大人と子どもの文化状況は予想以上に共有されていた。特に映画・テレビといった映像メディアによる流行の創出などでこの点が見られる。 (2)「リアリズム」をめぐる議論の背景には、一般文学での批評の動向が大きく存することがうかがえる。 (3)いずれにせよ今後一層、同時代の一般の文化状況、文芸の動きを把握する必要性が確認された。 3 手元にコピー等のかたちで収集できた同人誌やこの時期の創作についても順次調査を進めており、そこにみられるエンターテインメント分野を含めた一般文学や時代状況への言及について、今後裏付け作業をしつつ総合的に方法の検証をはかりたい。
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