当初の計画通り、ほぼ順調に進展している。まず第一に従来の内外の研究史を概観し、また関連する文芸様式を含めた叙事文芸様式の伝統の広がりへの展望を得るため、ホメ-ロスの二作品を初めとして同じ叙事詩の伝統に立つローマのウェルギリウスの作品や、また関連の他の文芸様式(抒情詩、劇詩を含む)の概観を行った(これは逸身による概説書の形で上梓される運びである)。これによって全体の見通しを得て叙事文芸様式の重要性が改めて明確にされた。これと並行して必要な資料・文献の調査・収集にあたり、予定通りコンピュータ利用による検索用プログラムを含む一部の資料については既に入手を完了している。また国内の他の研究機関が保有する資料等の現地調査と文献複写・収集のための研究旅行も実施した。この過程で既に、ホメ-ロスに代表される叙事詩の本流と言うべき伝統の問題とともに、またこれに意識的に対処したヘレニズム期のカッリマコス以降の文芸観の問題が改めて認識されてきた。従って本研究においても、一つにはホメ-ロスとその影響に関する研究と、またそれと同時にカッリマコスとその文芸理論の影響下にあるヘレニズム・ローマ期の文芸、すなわち小叙事詩、牧歌詩、エレゲイア詩等がいわば中心的な関心対象として定まってきた。これに応じて、個々の作品自体の原典の分析研究もまた、いくつかの作品ついては語法・修辞・文体といった言語・形式面はもちろん、作品の構成、場面・人物・情景等の描写、モティフやテーマ等の様々な側面からの検討に着手しており、比較的順調に研究計画に沿った進展を見ている。この作業を通じて、言語表現上の問題のみならず、場面展開や構成、テーマ等の多様な側面における影響関係が予想以上に強いことがいっそう明らかになりつつある。今後は更にこの分析を継続しながら、さらにより系統的に文芸様式としての特色の考察を含めた研究を進めて行く予定である。
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