今年度の研究実績としてまず挙げられるのは、前年度から継続して行ってきた研究が学会発表および学会誌掲載という形で実を結んだことである。すなわち叙事詩における女性像についての研究が「『オデュッセイア』のキルケの段」として一応まとめられた。これは第10巻と他の巻(とくに第5巻と第9巻)との有機的な関連性についての分析である。『オデュッセイア』におけるキルケについての考察からは、魔女という観点から論じた「古典古代の「魔女」」も生まれた。この論文では、ラテン文学におけるキルケ像との違いも言及した。 またヘシオドスの叙事詩についても、『神統記』と『仕事と日々』におけるパンドラ神話を中心として、ギリシア文学のトポスである女性嫌悪の端緒に関する論考「ギリシア神話の「女性嫌悪」」を得ることができた。 とはいえこれで叙事詩全体がカバーできたわけではなく、『イリアス』についての考察も必要である。これについては、次年度において悲劇研究と連結させながら行う予定である。すなわち『イリアス』とエウリピデスの『ヘレネ』、『トロイアの女』などの比較を通してヘレネ像やヘカベ像の解明を試みるつもりである。同時に、『オデュッセイア』についても、アイスキュロスのオレステイア三部作との比較によって、クリュタイムネストラ像の試論にも取り組みたい。
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