今年度は、以前から継続して取り組んでいた『イソップ風寓話集』の翻訳の完成に時間を費やしたため、科学研究費のテーマに関する論文をまとまった形で発表することはできなかった。しかし、バブリオスの寓話を原典のギリシア語から翻訳し、詳細な解説をつけ、他の寓話関係の類書にはない寓話番号対照表を作成しえたことは、西洋古典学に関する業績として一定の成果をあげたものと確信する。 科学研究費のテーマについては、「ギリシア神話の女性たち」というテーマで隔週に講義を行う機会があった。取り上げたのは、パンドラ、ペネロペイア、クリュタイムネストラ、アンドロマケ、ヘレネ、テティス、アプロディテ、デメテルとペレセポネ、エレクトラ、アンティゴネなどである。この一連の講義のなかでは、叙事詩と悲劇に登場する女性たちについてそのプロフィールを紹介し、原典からの抜粋を読み、その人物を主題とするさらに古代の壷絵やルネッサンス以降の絵画・オペラなども検討した。そのような作業のなかから、文学研究と絵画(壷絵)研究の相互補完の必要性を痛感した。文学伝承には現れない主題や描写が壷絵に表現されている場合、文学伝承をさらに詳しく検討する必要があるのではないかと思う。とくにそれを強く感じたのは、アンドロマケの場合である。 今後の予定としては、以上の収穫を生かして、ギリシアの叙事詩と悲劇における女性たちについての論考を一冊の本にまとめるべく準備を進めている。
|