今年度は、女性と財産に関する現行制度の内容(民法の夫婦財産制、離婚給付、損害賠償制度、寄与分を含む相続、さらに年金制度、租税制度、企業の家族手当制度など)の研究、民法の諸制度に関する統計と判決例の検討、女性と財産に対し、直接、間接に触れている既存の調査の再検討を実施し、来年度の実態調査に備えた。 現行制度については、民法においては、一応制度的中立性が認められる。しかし、年金制度、及び租税制度においては、制度の基底にある家族モデルが片稼ぎ家族であり、女性の資産取得原因の制約となっているという感がある。これについては、既存の研究もあるが、なお検討の余地がある。民法の中立性は、このような他の制度のヴァイアスや、現実における男女の力関係の相違によって影響を受けることになる。司法統計の検討は、扶養、離婚給付及び不法行為による損害賠償について女性が不利な立場にあることを示している。相続については、司法統計は、その実態を十分に示していないので、実態調査から掴む必要がある。判決例の検討は、以上の統計的な結果をほぼ裏付けている。 既存の調査としては、(1)農村における相続調査、女性の地位の調査、女性の財産に関するアンケート調査、(2)都市における相続調査、(3)都市における共稼ぎ夫婦の家計調査、などがある。(1)は、女性が土地財産を取得する機会が少ないこと、しかし、女性の財産取得要求はかなりあることを示している。(2)は、老親扶養と結び付いて女性にも不動産取得の機会があることを示している。(3)は、女性の財産取得と資産形成の可能性を示しているが、なお、女性が不利な地位におかれていることを示している。いずれにしても、女性の資産取得と形成過程に関するモデル形成にはまだ遠い状況にある。
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