研究概要 |
本年度の研究及び調査結果の要点は以下の通りである。 第一に、ロンドン法曹学院図書館(特に、リンカンズ・イン)とボードリアン図書館(オクスフォード)での調査及びジョン・ベイカ-教授(当時オールソールズ・コレッジ)、イベストン博士(モードリン・コレッジ)との面談によれば、イングランドの法廷弁論資料として残存するのは主として18世紀以降であり、「Legal Biography」に分類される(残念ながらケンブリッジとブリティッシュライブラリは未見)。 第二に、代表的弁論家トマス・ア-スキン(Sir Thomas Erskinel 749-1823)の弁論を分析する資料は、バ-及び議会での弁論集(合計8巻入手済)の他、二次資料として種々の伝記がある。 第三に、ア-スキンはセント・アンドル-ス及びケンブリッジで特に古典学を習得した訳ではなく、弁論集にも古典からの引用が頻出するわけではない。しかし、例えば、インド統治に関する弁論に中で、キケロ-『ウエッレース弾劾弁論』との比較がされている点は、陪審員と弁論家の共通の教養基盤を前提にしないと理解できない。 第四に、ア-スキンの弁論家としての活躍は,スコットランド啓蒙主義やフランス革命前後の思想・時代背景、及びバ-ク、ピット、バイロン等との交友関係と密接に関連している。 最後に、議会弁論でのラテン語慣用語句が法廷弁論に多用されている点から、当時の議会と法廷の構成員の教養・社会基盤の共通性、さらに両制度の社会的機能の未分化が推測される。 以上の点に関し、来年度資料的に跡付けていきたいと考えている。
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