昨年提出した本年度の研究実施計画では、「本研究の直後の契機であったわが国における先住民の権利実現にとって重要な意味を持つ『アイヌ新法』の立法化が現実的日程に上がりつつある状況を踏まえ、それとの具体的関連を重視しながら研究をまとめる予定でいる」としたが、昨年4月に「ウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会」報告書が提出され、それに基づいた新施策の策定および法案作成の作業が始まるなど、わが国初の民族法(たるべきもの)の作成作業が予想をも上回るスピードで進捗し始めた。 北海道における「ウタリ問題懇話会」以来この問題にさまざまに関与してきた「研究代表者(常本)」は、わが国において歴史的意味を持つべき今回の事業を前にして、本研究において実施してきた基礎的研究を継続し、その結果をとりまとめることに努力するとともに、政府において検討されている施策および法案の内容に具体的に対応した検討を行い、それに基づく具体的提言を試みることにも注力することとした。 前者の関連では、本年度は、予定通り主としてオーストラリアにおける権利回復運動を検討したが、その関連で、前オーストラリア・ポンド大学(現テンプル大学) Vicli Beyer教授のインタビュー等を行い、Mabo判決の経過およびそのオーストラリア社会への影響を聴取するなどした。 後者の関連では、有織者懇談会の報告書およびそれに基づく立法作業が、アイヌ民族の先住性を基礎とするアプローチによるものというより、いわゆる多文化主義的アプローチに立つものであると解されるものであるため、民族の権利実現と多文化主義の関連について補充的な検討を行い、両者の異同を明らかにすることを試みた。
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