平成7年度には、人権の基礎にある「個人の尊厳」についての基礎研究を行った。そして、個人の尊厳の原理が、全体主義を否定したうえでの個人主義を宣言し、あわせて人格的自律の原理を内包していること、また、ドイツ基本法にいう「人間の尊厳」に含まれている人格的要素をあわせもつものであること、その意味で、個人の尊厳は「ありのままの人間」を尊重するという要素と「自律した人格としての人間」を尊重するという二つの要素をともに含んでいること、という理解に至った。 また、個人の尊厳と密接に関連する憲法13条の「幸福追求権」の理論的・解釈論的構造について、研究を深めた。幸福追求権が憲法の人権規定に列挙されていない権利を導き出す根拠となる規定であるという通説・判例を前提に、どのような権利がどのように導き出されるかについて考察し、幸福追求権が広く個人の自由な自己決定を保障していること、その自己決定は人間の自由な行為一般に及ぶと解すべきこと、このような自己決定の淵源は19世紀リベラリズムに由来することなどの結論を得た。 平成7年度の研究の進捗状況は、基本的に当初の計画が順調に進んだといえる。「個人の尊厳」に関する基礎的分析をほぼ終え、その全体像を体系的にとらえることができた。今後は、さらに新しい人権問題の個別分野に研究を進めたいと考えている。また、本研究に関連して、1995年10月に日本公法学会で「幸福追求権」について報告する機会があったが、報告が抽象的レベルにとどまり、具体的な問題についてまで十分に論及することができなかった。そこで、今後の本研究では、「幸福追求権」を中心に据え、個人の尊厳の原理との関係、幸福追求権から導き出される権利の範囲と基準、導き出される権利の個別的検討などの研究に取り組み、研究成果を出版物として発表したいと考えている。
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