平成8年度は、人権の基礎にある「個人の尊厳」についての基礎研究を行うとともに、憲法13条の幸福追求権について体系的・原理的な研究を行った。 幸福追求権に関する研究は、平成7年10月に行った日本公法学会での幸福追求権に関する報告に基づき、それをさらに深めて公法研究58号に論文として発表した。そこでは、幸福追求権が憲法の人権規定に列挙されていない権利を導き出す根拠となる規定であるという通説・判例を前提に、どのような権利がどのように導き出されたかについて考察し、幸福追求権が広く個人の自由な自己決定を保障していること、その自己決定は人間の自由な行為一般に及ぶと解すべきこと、このような自己決定の潤源は19世紀リベラリズムに由来することなどを論じた。 また、「個人の尊厳」から派生する人権問題として、人権の私人間効力に関連してドイツの基本権保護義務論、裁判を受ける権利の現代的保障のあり方、生存権の保障、などについて研究し、論文を発表した。また、人権保障を支える法制度である違憲審査制についても、日本の違憲審査制の歴史的展開、現実の機能、最高裁の憲法判例の問題点、違憲審査制の活性化の課題などについて研究した。さらに、現在研究中のテーマとして、人権の基礎理論、環境権の法理、選挙権の実効的保障(とくに在外選挙権の保障)などがあり、研究としてまとまり次第順次発表していく予定である。 平成8年度の「個人の尊厳と新しい人権問題」に関する研究は総じて順調に進み、所定の成果をあげたと評価することができる。今後なお研究をまとめていく所存である。
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