本研究は、93年に制定されたロシア連邦の新憲法について、その原理と体系を、制定後の3年間の実践をふまえて明らかにしようとしたものである。法治国家、権力の分立、人権の尊重など、近代立憲主義の諸価値を具体化し、新憲法制定時に発足した連邦議会も2年間の第1期を終え、95年には2期目の下院選挙を行ない、昨年には新憲法下での初めての大統領選挙も行なわれ、これらの諸価値の定着への歩みもあった。憲法裁判所は、こうした憲法体制の擁護と法治国家の実現にその役割は高く評価されるものであった。 しかし、連邦構造に関連しては、チェチニャ戦争に象徴される諸矛盾が残存し、構成共和国の憲法とロシア憲法とのあいだの「憲法戦争」は依然としてその克服を課題としているし、地方自治制度にしても選挙実施が遅れ、その定着は今後の問題とされている。議会は、この間精力的に立法活動を行なってきたとはいえ、大統領令による「大統領統治」の手法は、手術・病気療養のため、一時ほどではなかったとはいえ、なお主要な立法機能を担ったままである。体制移行の「過渡的」性格によるところと、ロシアの非西欧的な構造との緊張ろいう問題は、こうして憲法問題にも依然として存在し続けている。 ロシアにおける立憲主義の可能性を見定めることが、この研究のめざすところではあったが、以上の検討からも明らかなように、その正否は、今後もかなり長期にわたって観察を要するもののようである。 この2年間の研究の過程で、副物産として、「旧ソ連・中東欧諸国の体制転換と憲法裁判」(法律時報、97年3月号)、「ロシアの地方制度と地方自治」(地方自治研究機構報告集、1997年)をまとめることができた。以前の制憲過程の研究と併せて、ロシア憲法研究をまとめる段階にいたったと考えている。
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