本研究は、国際的人権保障における人権の普遍性、不可分性および非選択性が国際人権法上どの程度確立しているかについて、アジア諸国の主張を素材とし、分析することを目的とした。具体的には、“人権"概念の普遍性や不可分性を否定し、非選択性を強調する一部のアジア諸国の主張について、(1)世界人権会議アジア地域会合、(2)国連アジア・太平洋地域人権問題ワークショップ、(3)アジア欧州首脳会議(ASEM)のような国際会議の場における人権論争や人権対話を素材として、国際人権法の視点から分析した。 その結果、次のような結論を得た。すなわち、(1)の場では、一部のアジア諸国から、人権の普遍性に対する強硬な異議が提示され、この見解は今日も撤回されていない。しかし、(2)の政府間対話の場では、人権の普遍性に関する議論は一応止揚され、国内人権機関の役割や地域人権機構の設置問題といった国内的・地域的な人権実施の問題に議論が収斂しつつある。しかし、(3)のEUとASEAN間の政府間協議の場では、人権の普遍性をめぐる対立は解消されておらず、棚上げされているにすぎない。 いずれにせよ、世界人権会議で確認された人権の普遍性や不可分性は、アジア・太平洋地域では完全には承認されていない。しかし、政府間の信頼醸成や安全保障に関する対話と平行して、人権理解に対する対話が引き続きこの地域諸国間の焦点となることは確かである。
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