平成7年度は、まず諸外国における法制度の調査をおこなった。とくにアメリカにおけるFederal Clean Water Actの1990年の改正によって、環境破壊における民事紛争を被害者側に有利になる形で強化された点、さらには類似の発展がみられるヨーロッパ共同体の廃棄物に関する委員会指令案の分析がその中心であった。その結果、環境破壊に関する民事紛争は伝統的な管轄ルールをいかに拡張してゆくか、という努力の歴史であった、ということが浮かび上がってくる。この点でとくに興味深いのがTrail Smelter事件であり、それに端を発するUS-Canadian Uniform Transboundary Reciprocal Access Actである。さらに1974年のNordic Environment Conventionならびに欧州司法裁判所のHandelswerkerig Bier v. Mines de Potasse d'Alsace判決もこの文脈で理解する必要があり、これらの作業は次年度の課題となった。 また同時にあらたな条約法の動きとして、策定作業が進められている「有害物質と海上輸送中に生じた損害についての民事責任に関する条約」の草案を入手し、検討中である。諸外国の動きも目配りしながら次年度にはその法的構造、実際的意義についてつっこんだ検討をする予定である。
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