今年度は研究のしめくくりの年として、米国を中心とする民事訴訟の状況、有害物質の海上輸送中に生じた損害についての民事責任に関する条約(以下HNS条約)、および環境問題をキ-イシューとする紛争事例を主として検討することにした。HNS条約は1994年に作成された草案を基に最終案の検討がつみ重ねられてきたが、若干の変更をうけた後、1996年春に採択されるにいたったものである。この分析から得られた点は数多く、その詳細は研究成果報告書にまとめるつもりであるが、抵触法的国際民事訴訟法的側面双方からの分析をおこなった。また米国ではFederal Clean Actの1990年の改正の結果、同法707条下の私的執行に関する規定が強化され、いわゆるcitizen suitがかなりうまく機能していることがわかった。また交渉学の観点から、いくつかの紛争類型を分析してみると、ADRの機能する余地が大きいことが推定されることも明らかになった。その結果、制度の枠組としては、環境問題に関する民事責任について処理のガイドラインを国際機関の手によって採択し、国際環境紛争仲裁制度をもうけて、そこでの解決指針に用いることが有用ではないかとの構想を得るにいたった。
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