平成5年度の商法改正以降、わが国でも株主代表訴訟や取締役の責任について議論されることが多くなった。そして従来から株主代表訴訟の濫用的提起に悩まされ取締役の責任のあり方について研究が最も進んでいると考えられているアメリカの法規定や判例法について紹介されることが多くなっている。たしかに株主代表訴は昭和25年の改正によりアメリカ法を範としてわが国に導入されたものである。しかしながら商法266条をはじめとするわが国の取締役の責任に関する商法の規定は、アメリカ法的な取締役の責任とは少し異っていると思われる。そこで本研究ではまずわが国の会社法に古くから影響を与え、また現在でも比較すべき点の多いヨーロッパ各国における取締役の責任と損害賠償からの救済について研究した。とりわけ参考にすべき点の多かったイギリスおよびデンマークについて重点的に研究した。イギリスにおいてはアメリカ法に比べて代表訴訟の範囲が狭められている。すなわち取締役の会社に対する責任追求は会社が決めるべきことである、個々の株主が提起できる場合は例外的であるという考え方で貫かれている。責任救済については、イギリス法では責任追及の厳しさから責任保険の保険料負担を会社が行うことを認める明文規定をおいている。これは取締役の責任の脅威についての認識が一般化したことから合理的な立法であった。一方デンマークにおいては責任追及の事例は少ないが裁判所の裁量によって損害賠償を軽減することができる法制度が注目される。平成8年度にはこれら欧米の法制度を比較研究した成果を利用して日本法について検討する。
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