平成5年の商法改正以後、取締役の責任を追及する代表訴訟が、わが国でも多数提起され、そこで請求される損害賠償額も巨額に及ぶものも見られることから、経営者の中には相当程度これを脅威に感じ、濫用的な代表訴訟を危惧している。本研究はこのような状況のもとにある わが国において取締役の会社に対する損害賠償責任は以下にあるべきかを検討することを目的に開始した。平成7年度には、欧米各国の取締役の責任とその救済策について調査検討した。アメリカにおいては、当初経営判断の法則や補償によって救済していたものの、近時は取締役責任保険が広く利用されるようになったが、責任保険危機とともに、各州法では取締役の責任制限及び免除を規定するようになり、経営判断の過失についてまったく責任を負わない場合も出現した。イギリスでは、従来あまり利用されなかった代表訴訟に変化が生じてきていて、それとともに、取締役の責任保険が普及しはじめてきた。最近になってイギリス会社法は、取締役責任保険の保険料を会社が負担することを明文をもって認めるようになった。デンマーク法においては、裁判所が取締役の通常の過失に基づく損害賠償責任を軽減する裁量をもつこととしている。わが国では、取締役の損害賠償責任は、伝統的な考え方からすれば、会社に生じた損害額を賠償させることになる。しかし、取締役が個人的に巨額の損害賠償をさせられることが果たして会社法制において適切かどうかが問題になる。わが国の責任免除規定はあまりにも厳格すぎるし、取締役の責任保険については会社の保険料負担が認められるかどうかについて争いがある。この点については立法による手当てが必要である。さらに裁判所が取締役の損害賠償額を決めるに当たって広い裁量を認めることも検討すべきである。
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