この研究課題を実施するために、不動産法、登記法、土地法、借地借家法などに関するわが国の文献および諸外国における文献を蒐集した。また、文献の蒐募と平行して、各地区における「借地方式による住宅供給」の実態および問題点を把握するために、聞き取り調査を行った。聞き取り調査や資料分析の結果、定期借地権に関する事業者側のメリットとして、(1)高地価の土地が低コストで利用可能、(2)これまで地主が売却・賃貸しなかった土地が利用可能、(3)低価格の供給による購買意欲喚起がある。また、土地所有権・借地権者側のメリットとしては、(1)一定期間後に必ず戻ってくる。(2)更地として返還される、などがある。これに対して、定期借地権制度の問題点も明らかになった。事業者側の不安要因としては、(1)期限到来時の返還、(2)地主・借地権者の交代・相続、(3)賃料スライド、(4)税制などがあり、土地所有権・借地権者側の不安要因としては、(1)期限到来時の土地の返還、(2)期限到来時の建物の取り壊し、(3)資産としての価値、(4)地代の値上げ、(5)転売・転貸・中途解約などがある。本研究では、定期借地権制度創設による上記メリットと不安要因を比較検討した結果、事業者や地主側のメリットが大きく、定期借地権者は従来の借地権制度より不利益な地位にあることを基本的認識として、予防法学的見地から一定の対策が必要であるとの結論に達した。このような意味から、上記不安要因は、法的に極めて重要な問題を含んでいる。これに対して、建設省は平成七年四月「定期借地権設定契約書(案)」を公表した。本研究では、この建設省の「定期借地権設定契約書(案)」を中心に、上記の問題に関する対応が十分であるかどうかを検討し、十分でない点については、現行制度の改正も含めて一定の提案を行おうとするものである。
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