平成7年度、8年度と科学研究費補助金を交付して戴くことにより、従来の先行する研究が内容的に不十分のため、アメリカ法における大株主の忠実義務を明確に理解できないもどかしさを払拭すべく研究を行ってきた。私の研究の最大の目的は、閉鎖会社のみならず公開会社においても、さまざまな類型において大株主の会社ならびに少数株主に対する忠実義務が確立していることを正確に解明することであり、この2年間の研究により、十分な実証資料を得、論証する確信を得るに至った。アメリカ法における大株主の忠実義務の法理の展開された情報開示の類型、及び、同法理の展開された資産譲渡の類型については主要な部分の研究をほぼ終えている。このうち、情報開示の類型については、平成9年度中に、論文の形で発表することが可能である。他方、資産譲渡の類型は、解散や、新株発行及び資本の再構成といった諸現象が絡むため、なかなか、基本的な筋を見いだせず、困難が多い。この類型の判決は、主としてデラウェア州、ニュージャージー州、ニューヨーク州、イリノイ州の最高裁判所および下級審裁判所の判決を中心として膨大な判決群を形成している。私は、100年以上に渡って各州に散在する判決を1件ずつ丁寧に評価し、それぞれについて全体の中の位置づけを検討し、データベースに収め、壮大な大株主の忠実義務の法理の根幹部分の確立をめざして研究した。資産譲渡の類型についても、平成9年度中に、論文の執筆までは終了できる見通しである。
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