本研究による学説および判例の分析から、米国における連邦法たるFIRREA(金融機関改革復興執行法)の1821条k項をめぐるユニフォーム・スタンダード、およびミニマム・スタンダードの両立場からする学説や各裁判所の解釈の相違は、金融機関の破綻処理を担当しているFDIC(連邦預金保険公社)をいかなるものと見るかに起因しているということがわかった。すなわち、経営破綻金融機関の取締役の注意義務基準に係わって、重過失基準を掲げるFIRREA以外にコモン・ロ-や州法に拠る、より重い軽過失基準の適用をも肯定し、FDICの責任追及を支持する立場は、金融機関の破綻処理を担当するFDICについて、金融機関の管財人として金融機関の単なる承継人ということからさらに進んで、連邦預金保険基金の保護者としての役割を重視する見地からFIRREAを解釈している。1980年代の経営破綻金融機関の急増を背景として、多くの裁判所はこの軽過失基準の立場を採用し、結果的に取締役個人に破綻処理コストの一部を負担させて預金保険基金の保護を図ろうとした。しかし、また、FDICのコスト削減だけを性急に求める態度を批判した1994年のオ-メルベニィ連邦最高裁判所判決が示すように、責任を追及される取締役側の防御に配慮して、注意義務違反を認定するについて経営判断原則の適用を認めたり、金融機関に対する監督者としてのFDICの寄与過失を考慮して、損害賠償責任を否定・軽減するという、新しい判決の動きが生じていることも、本研究から判明した。これらのことをわが国の法制の中にどのように取り入れることが可能であるかについては現在研究中であるが、今後もなお継続をしていくつもりである。
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