現行労働法の基本スキームは、労働関係においては私的自治がその前提を欠くために、これを集団的自治によっておきかえるというものである。したがって、集団的自治が機能しなくなると、労働関係を規律するための適切な手段が欠けることになる。しかし、そもそも労働組合がこのような機能を営むには限界があるし、何より、現状はこのようなスキームが機能していないことを示している。そこで、本研究においては、労働法がこのような事態に対しいかに対応することができるかについて検討した。その際の主な視点は、集団的関係の再構築、個別法的対応、紛争処理システムの整備という3つである。 集団的関係の再構築という課題は、本来であればもっとも有効な手段であろうが、実際には困難な問題が多く、とりわけ、集団的自治自体にも問題があることが看過できない。個別法的対応としては、労働関係の両当事者の利益に配慮した合理的契約内容をもった標準労働契約を呈示するという手段が考えられる。もっとも、このためには、何が合理的な契約内容なのかという点などについて、さらに検討する必要があるが、合理的な内容を形成する方法として、集団的規制を参照するという方法のほかに、裁判という手段を用いることが有効なのではないかと考えられる。もっとも、そのためには、裁判所が労働関係のもつ特殊性に対して正しい認識をもつことが必要であるし、そもそも裁判所の利用が今以上に容易になる必要がある。
|