今年度は、まず、わが国における「組織体の経済犯罪」が問題となる具体的事例を検討することにより、刑法・刑事訴訟法上の問題点を明らかにする作業に取りかかった。予備的作業として、わが国における「共犯論」の現状を洗い直し、さらに経済犯罪における「共犯判例」を概観することによって、経済事犯に固有の問題点の発見および問題解決の視座の獲得に努めた。このような作業を通して、(1)個人責任を原則とする伝統的な「共犯論」の枠組みでは組織体に固有の経済犯罪行為に十分対応しきれていない現状が明らかとなり、(2)これを打開するには具体的な立法政策の必要性が痛感されるが、そのためには、諸外国との比較研究が重要であることが、あらためて確認された。 次いで、比較法研究の第一歩として、ドイツにおける経済犯罪規制に関する諸法令の立法経緯、判例の状況および学説の展開過程を収集・分析する作業に著手した。ただ、ドイツ刑法学においても、経済刑法と共犯論とを絡めた視点での先行研究がないことから、具体的には、「法人(企業)の刑事責任」や「環境犯罪における企業責任」、あるいは「欠陥製造物についての刑事責任」をめぐる最新の議論を手がかりに比較法研究を進めている。このような作業からは、例えば、(1)フランスにおける新刑法典における法人処罰の規定などに影響され、企業の犯罪能力・刑事責任についての議論が活発化してきていること、(2)環境犯罪については、一定の要件のもとには、公務員による行政上の不作為が環境犯罪の共犯たりうるとの議論が見られること、さらには、(3)欠陥製造物についての刑事責任および共犯論の構成について積極的な議論が展開されるに至っていることなど、わが国の当該問題を考える上でも参考になりうる、有益な議論が展開されていることが明らかとなった。
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