本年度は、前年度に着手したフランスおよびアメリカ合衆国における経済犯罪に関する立法、判例および学説の分析を継続するとともに、本研究の総括として、組織体の経済犯罪行為に対処するための立法論を模索した。 アメリカ合衆国では、判例上、多くの犯罪類型について法人の刑事責任が肯定されているが、とくにアメリカ連邦裁判所レベルでは「代位責任」の法理を拡大する方向で法人の刑事責任が認められ、代位責任の要件である職務範囲が広く解釈されたり、自然人行為者の特定は不要であるとの解釈が示された。しかし、近年では、このような解釈に一定の限定を付すべく、法人内における違法行為予防・発見のための法人自身の組織的な取り組み(いわゆる「遵守措置(compliance program)」)の存否やその運用状況を考慮に入れて法人の刑事責任を認定する動きが出てきている。他方、個々の代理人・従業者の犯罪的意図が証明されない場合に、従業者の「集合的認識(cおllective knowledge)」に基づいてメンズレアを要件とする犯罪について法人の刑事責任を認めるアプローチも示されている。このような手法に対しては学説上多くの批判が寄せられているが、アメリカ合衆国の法律実務の特徴を示すものといえる。 今後は、このような比較法研究や最近の組織的犯罪対策立法の動きなどを踏まえて、従来の共犯論では解決困難な「組織体」について、固有の犯罪論を展開する。
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