平成8年度には、前年に引き続き、アメリカ政府のアジア地域政策関連の資料収集と分析を行いつつ、それに加えて、アジア地域機構やアジア地域諸国の政策構想に関する資料の収集を重点的に進めた。まず、前者のアメリカ側資料については、60年代以降のものを体系的に調査した。この時期に関しては、狭義の外交文書がまだ未公開のため、マイクロ資料として入手可能な議会委員会議事録、議会提出の政府報告書などの他に、当時の雑誌文献、研究論文などが主な対象となった。各種の研究機関の報告書や研究論文も、当時の政策決定過程に大きな影響を及ぼしており、有用な資料となる。これらの間接的資料を通して、アジア開発銀行(ADB)、太平洋経済協力会議(PECC)、アジア太平洋経済協力閣僚会議(APEC)などの主要地域機構に対するアメリカの政策構想の概略は解明することができたと思われる。また、こうしたアジア地域政策の変遷過程を解明するためには、アメリカ冷戦戦略の全般的な変化の把握が不可欠であり、近年急速に進展している冷戦史研究の諸文献の収集にも力を入れた。後者のアジア地域機構および地域諸国の資料としては、ADB、PECCなど各機構の報告書や出版物、当時の雑誌文献、研究論文などの収集を行った。日本側の動きに関しても、公開された外交文書でその一端を知ることはできたが、まだ不十分な状態にある。韓国政府の政策については、別途の機会を得て、韓国現地で公文書館所蔵資料の調査、政府関係者・研究者の面接調査を実施した。その結果、とりわけASPACに関する一次史料を多数発掘できたのは大きな収穫であった。ASEANの動きと共に、70年代以降のアメリカの単独主義(unilateralism)への傾斜と、アジア諸国の地域主義の模索という作業仮説を立証する好例といえる。現在、これらの調査結果を整理し、来年度中に単行本としての原稿完成を目指して執筆を進めている。
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