平成7〜8年度の2年間にわたって行った本研究は、第二次世界大戦終了から現在までの期間を対象に、アジアの地域主義の動向に対するアメリカの政策の変遷過程を歴史的に解明することを目的とするものであった。アジア太平洋における地域主義の台頭という今日的課題に関する政策研究と、冷戦期に関する外交史研究とを接合することを主眼とする。こうした関心から、本研究の多くの部分は、アメリカのアジア地域政策に関する一次史料の発掘、調査、収集によって占められた。アメリカ政府公刊外交文書、未公刊外交文書のマイクロ資料、アメリカ議会資料(委員会、聴聞会の議事録および提出報告書)、アメリカ国内シンクタンクの報告書、各アジア地域機構の刊行物などを重点的に収集した。加えて、アメリカの冷戦戦略の変遷に関する外交史的研究文献も体系的な収集の対象となった。これによって、アメリカのアジア地域政策の過程をある程度実証的に描くことができると考えている。これらの資料は、アメリカのアジア地域政策が、1970年代頃を分水嶺に大きな変容を遂げてきていることを示している。それは、多国間主義から単独主義への傾斜として仮説的に要約できよう。より正確にいえば、多国間主義と単独主義という2つの潮流が拮抗する中で、戦後のアジア政策が展開されてきたといえる。ポスト冷戦期におけるアジア太平洋政策においても両者の角逐は顕著に現れており、アジア地域主義をめぐる政策の展開もこうした構図の中に位置づけることができる。60年代までは、アメリカはアジアに一定の地域秩序を形成することを政策の基本目標に据えていたが、70年代以来、冷戦の終焉まではほぼ一貫して消極姿勢に終始した。この間、アジア太平洋地域秩序の形成を進めたのは、戦後一定の政治経済的安定と自立基盤を築き、「上からの地域主義」への拒否反応を乗り越えたアジア諸国自身であった。
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