研究概要 |
平成7年度の研究計画における目標は、過去数年間にわたるフィリピンでの現地調査を通じて入手した中産階級の政治集団の多くに関する大量のデータをフィリピン政治のより広い分脈に置き、1983年8月21日のアキノ暗殺から1986年2月の民衆革命を経て1992年5月の大統領選挙までの期間を対象に「8月21日運動」を中心としたフィリピン中産階級の政治運動の歴史的記述を行うことであった。これまでのところ、「8月21日運動」も参加した中道勢力の連合体であるバンディラの同期間における歴史的記述及び分析を行った論文をPilipinasNo.24,1995(1996年初旬出版予定)に掲載予定である。この論文は、本研究の中間生産物的位置を占めるものである。 この論文の中で明らかにしたことは、以下のことである。 (1)マニラの都市中産階級の組織が多数参加した中道勢力の連合体であるバンディラは、実は上層及び下層階級のメンバーも含んだ、階級横断型の組織であった。 (2)とはいっても、比較的少人数の多数の組織の連合体であることにおいて、同じく階級横断型である伝統的保守勢力とは異なっていた。 (3)また、バンディラ自体は社会民主主義的イデオロギーと政策を掲げていたが、バンディラに結集した集団の多くは、明確なイデオロギーや包括的政策を持っていなかった。この点、強いイデオロギー指向と包括的政策プログラムを持っていた左翼勢力とは大きく異なっていた。 (4)革命後、マルコス大統領打倒という共通目標を失ってからは、中道勢力の凝集力は大きく弱まった。バンディラはやがて崩壊し、特定の政治的争点をめぐって数多くのアド・ホックな連合体が組織されては消滅するような状況が現れた。
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