(1)研究の第一段階として1890年代以降、中国においていかに日本の国民国家形成についての関心が現れてきたかを季鴻章や張之洞などの清朝の高官の言説の中に跡づけることを試みた。これと同時に日本についての同時代的分析として大きな影響力をもった黄遵憲の『日本国志』が日本の岡千仭『尊穰記事』などをどのように参考にして編纂されているかを調査した。 (2)また、その『日本国志』の流布していく過程を康有為の私塾・万木草堂のカリキュラムの分析などを通して明らかにし、変法自強運動の改革プログラムであった康有為『明治日本変政考』にいかに具体化していったかについても検討した。 (3)次に、日本模範国論が形成された後に日本へ渡ってきた官僚や留学生たちが、日本のいかなる法律学や政治学の理論を継受したかを、実藤文庫所蔵の中文訳日本語著作や早稲田大学の漢文講義録などを中心に分析し、さらにそれらの原典について調査した。 (4)また、日本に留学した中国人学生たちが帰国後に日本の法律学・政治学についての理論をどのように中国で普及しようとしたのかについて、各地の法政学堂について調べたが、必ずしも明らかにすることはできなかった。 しかし、これまで全く所在の知られていなかった広東法政学堂の講義録を捜し出すことができ、これによって憲法学や地方行政などに関する理論継受の実態をうかがうことができた。 (5)さらに、中国人留学生に強い影響を与えた日本人学者として加藤弘之や有賀長雄について当時の雑誌記事の収集などを行なったが、これらと中文訳とを捜し出して比較検討することは次年度の課題としたい。また、次年度は本研究のキ-パ-マンとなる梁啓超について本格的に検討したい。
|