この研究は、日本の国民国家形成に当って欧米から受容し、日本で独自に体系化された法律学・政治学の理論が、その後中国にいかに継受され、それが中国における国民国家形成と社会科学の制度化にいかなる影響を与えたのかを思想連鎖という作業仮説を設定して調査を進めたものである。 調査においては、日本に留学した留学生や知識人たちがいかなる法政学を学んだかを大学講義録や雑誌などを分析するとともに、日本から中国に招待された日本人教習や帰国した留学生たちが中国の法政学校でいかなるカリキュラムの下にどのような授業を行ったのかなどを検討した。 これにより、議会制構想や憲法論において、日本の明治国家建設の体験がかなり忠実に模範とされた反面、むしろ日本の政治体制への批判から共和制が重視されていく側面などが明らかになった。また、個人についてみると、清来の新政改革などに大きな影響力をもった梁啓超と明治法政学との密接な継受関係を明らかにしえた。とりわけ加藤弘之、筧克彦、小野塚善平次、美濃部達吉から受けた理論的衝撃をもとに、独自の概念枠組として創出していく局面など、本研究が元来目的としていた一思想連鎖とそこに生じるハイブリッドな理論の再生という事態をみごとに例証するものとなるように思われる。今後、収集した史料をさらに分析して、これを一つの著作としてまとめていきたいと考えている。
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