研究概要 |
本年度はペロニズムの変質過程の一例として民営化に象徴される脱ナショナリズムの動きに注目し、そうした動きに労働側がどう対処してきたのかを検討した。その際、民営化の動きが89年にはじまるメネム政権に先立つアルフォンシン急進党政権(83-89年)の下で実施されようとしたことに鑑み、アルフォンシン政権時代の民営化の動きと、それに対する労働側の激しい反発を、主として政党(ペロニスタ党)とCGT(労働総同盟)との関係に注目して分析した。その結果として次の結論を得た。第一に、労働運動は一見民営化反対運動の先頭に立っていたかに見えたが、実際にはペロニスタ党のなかで議席を大幅に失うなどその影響力を失いつつあったこと、第二に、党内におけるこうした労働運動の影響力の低下がメネム政権による徹底した民営化政策に対して労働側が十分な反対運動を組織できなかった一因ではないかということである。こうした分析の一部を、96年6月台湾で開催されたFIELAC(国際ラテンアメリカ研究連合)の大会で発表し、近々刊行予定である。 6月以降はアルフォンシンとメネム両政権の下での賃金策定プロセスの変動を跡づけることを目指し,そうした変動過程の中でメネム政権の労働政策の意義を明らかにすることを努めた。なかでもメネム政権の下では産業別団体交渉制度から企業別の交渉制度への変化が見られるが、こうした変化が先進国における新自由主義的改革といかなる共通性をもつものか、またそうした変化に労働側がどう対応してきたかを分析した。この研究を通してアルゼンチンにおいても国際的な流れとしての労働柔軟性が目指されていること、ただしそのプロセスは先進国とはかなり異なっていることを明らかにした。こうした研究の成果はアルゼンチンで共著の一部として刊行される予定であるが、賃金策定プロセスの変遷は今後とも検討を続けて行きたいと思っている。
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