本研究は、貨幣・信用制度の不安定性と管理可能性について、戦後の日本に蓄積されたマルクス経済学にもとづく貨幣・信用論研究をふまえ、海外での最近のケインズ派やポスト・ケインズ派における論議をも視野におさめつつ、この分野で手薄な欧米マルクス学派の不十分さを補い、欧米と日本に学史的研究の新展開を促そうとするものである。 こうした課題にそくし、本研究はとくにロンドン大学のCostas Lapavitsas博士の協力をえて平成7-8年度の2年度にわたり実施された。その成果は、私とラパビツァス博士との英文の共著Political Economy of Money and Finance(London:Macmillan)にとりまとめられ、印刷用原稿が3月末には出版社にひき渡せるところまで仕上がっている。ついで日本語版の共著もとりまとめ、本研究の成果を国内にも伝えたい。本研究をつうじ、主としてほぼつぎのような諸点があきらかにされたと考えている。 (1)経済学が体系的な発達を開始して以来、資本主義市場経済の中枢にピラミッド的な構造を形成する貨幣・信用制度について、経済システムの効率を推進する役割が各学派によって注目されるとともに、資本主義市場経済に内在的な不安定性をまた集中的に増幅する役割を強調する見解も同時代的にくりかえし示され、重要な論争を形成してきた。(2)これに関連し、国家や中央銀行の責任と裁量の意義と限界についても、対立的な見解が提示され続けてきている。(3)マルクス学派の見地からすれば、貨幣・信用制度をめぐるそうした学説史的展開は、資本主義経済に本来の無政府的な組織性に根ざした貨幣・信用制度の機能の特色を、さらに具体的な資本主義の歴史的発展の状況を背景に、それぞれの観点っから提示しているものと考えられる。(4)こうした見地をふまえ、社会主義経済の諸類型での貨幣・信用制度の役割についても補足的に新たな検討が加えられた。
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