本研究ではマークアップの景気に対する反応を産業別に推定し、さらに景気の伴う変動の原因を探ることが目的である。研究は大きく分けて3段階からなる。第一段階では、製造業の二桁分類に従い、トランスログ型の生産関数を直接推定し、それに基づき、短期の限界費用関数を推定する。第二段階では、限界費用関数と価格データよりマークアップ率を推定し、その景気循環との連動を調べる。第三段階では、既存のマークアップ変動の理論に関る主要変数、特に市場の寡占度(集中度)、顧客の固定性、及び輸入商品との競合に関る様々な代理変数と、我々の仮説である資金需要逼迫度の代理変数を組み合わせ、理論の検定をおこなう。 本年度の主要な研究成果は以下のとおりである。第一に、マークアップ変動について、米国経済をサンプルとする多くの既存研究と異なり、日本の製造業においては、概して統計的に有意で規模も大きい景気との順循環性が得られた。第二に、マークアップ変動と市場集中度には、緩い負の相関が見られるが、その規模は小さく、最も集中度の高い産業でも順循環性が見られる。また、マークアップに関しては、様々な代替的な仮定、利用する変数の組み合わせで、多くの推定値を得て、景気変動との連関について頑健な結果を得るべく心掛けた。
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