本研究の目的は、競争と協力の可能性が混在する経済社会において個人的価値を追求する経済主体の合意によってさまざまな社会的組織がどのように形成され、さらにどのように発展するかを、非協力ゲーム理論を用いて解明することである。 主な研究成果は次の通りである。 (1)社会的組織の形成と発展の基礎的モデルとして、組織形成の可能性を含む「囚人のジレンマ」の動学ゲームモデルを構築した。組織の重要な構成要素として、(i)構成員の集合、(ii)構成員の協力行動をモニターするエージェントおよびその費用、(iii)協力からの離脱に対する罰則ルール、(iv)分配ルール、を考え、組織の形成と発展の動学プロセスを分析した。組織の非メンバーの機会主義的行動(ただ乗り)が存在する場合、必ずしも全員が組織に参加するとは限らず、各主体は確率的に組織への参加を決定する。参加確率は、人口、組織参加によって正の便益が得られる組織の最小サイズ、組織参加による便益と離脱による便益の相対比の三つの要因によって定まる。さらに、組織形成モデルを非重複世代による動学ゲームに拡張した。動学分析の結果、人口が一定の場合、組織のモニタリング費用が組織の発展につれて増加するため、組織の形成が可能でない一定の限界値が存在することが解明された。 (2)社会的組織内の交渉問題を考察し、提携形成と利得分配に関する合意がどのような交渉プロセスを経て実現するかを非協力交渉モデルを用いて分析した。提案者が交渉主体の間で等確率で選ばれる交渉ルールのもとでは合意の遅れはないが、全員の協力は必ずしも実現しない。また、再交渉の可能性が利得分配の効率性を改善することはいかに有効であるかを調べた。
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