研究概要 |
研究の目的は,不完全競争的マクロ動学モデルを展開することであった。この研究の成果として,平成7年度中に次の2編の論文を発表した。 1.「実質賃金と雇用の中期的分析」 この論文では,中期的な時間視野での実質賃金と雇用の関係を不完全競争企業の行動にもとづいて分析した。実質賃金が雇用に及ぼす経路として,(1)財需要への影響を通じる経路,(2)資本蓄積への影響を通じる経路,および(3)技術選択への影響を通じる経路の3つを考え,個々の経路に関して分析した上で,それらを総合すると,実質賃金の雇用に関する中期的な効果がマイナスであることを明らかにした。さらに,この効果の絶対値は,短期の生産関数における算出の雇用弾力性(それは労働の保蔵の程度を反映する)が大きければ大きいほど,小さいことを明らかにした。 2.「南北経済の成長と交易条件」 南北経済の成長の分析において,北の企業は不完全競争的であるのに対し,南の企業は完全競争的であるとの仮定を置き,そのことが南北の交易条件や成長にどのような影響を及ぼすかを明らかにした。分析の結果,交易条件の主たる決定要因は北の成長率と技術進歩率であることが明らかにされた。北の成長率の上昇は南からの輸入需要を高め南の交易条件の改善につながる。また,北の技術進歩は北の輸入輸出品価格を低下させ,南の交易条件の上昇をもたらす。逆に,北の独占度の上昇等によるマークアップ率の増加は南の交易条件を低下させる。 以上の2つの研究により,経済に成長や変動に対して不完全競争がどのような役割を果たしているかを理論的に明らかにするという所期の目標の一部を達成することができた。
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