研究の目的は、不完全競争のもとでの経済の成長と変動を説明する理論を構築することにあった。その研究成果として、平成8年度中に次の3編の論文を発表した。 1.「ローマ-の内生的成長モデルにおける移行過程」 P.Romerは、技術進歩が企業のR&D活動に依存して決まるという考え方を基礎とする成長モデルを構築し、経済の長期的成長率の内生的決定について一つの説明を与えた。このモデルで興味深い点は、資本財部門が不完全競争的であることによって資本財の生産が過少となること、および研究開発での新しい知識の生産においては既存の知識が無料で利用できることよって外部効果の発生することから、均衡成長と最適成長が乖離することである。ところが、ローマ-はこれらの成長経路の移行過程については全く分析を行っていない。本論文では、移行過程における均衡成長と最適成長の関係を明らかにした。 2.「R&Dと内生的成長」 Romerの内生的成長モデルでは、R&D部門の生産関数の特定化の仕方が特殊であるため、人的資本の水準の増加が成長率の増加をもたらすという「規模効果」が存在する。しかし、この規模効果は現実のデータによって支持されない。C.JonesはRomerのモデルを修正し、規模効果が生じないようなモデルを構築したが、彼の分析は恒常状態の分析に限られていた。本論文では、恒常状態への移行過程を分析し、恒常状態の安定条件を明らかにした。 3.「不完全競争と中期マクロ動学」 最近の先進国の経済では、生産面での循環的変動が失業率の変動には必ずしも敏感に反映されない。ヨーロッパ諸国では、10パーセント程度の高失業率が10年以上も持続しているのに対し、日本では不況が長期化しているにも拘らず、失業率はせいぜい3パーセント程度に止まっている。本論文では、財市場と労働市場が不完全競争的であるようなマクロ動学モデルを構築し、このような現象の理論的な説明を試みた。
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