本研究の目的は、不完全競争のもとでのマクロ経済の成長および変動の理論を展開することであった。平成7年度と8年度の2年間に二つの分野にわたる研究を行った。第一は、不完全競争のもとでの実質賃金と雇用の決定に関する中期的なマクロモデルを構築することであった。不完全競争のマクロモデルは、最近のニュー・ケインジアンの経済学者によって展開されているが、それらの議論は短期の静学的モデルであり、資本蓄積や技術変化を考慮した中長期的なモデルはほとんど展開されていない。本研究では、マランヴォ-のモデルを発展させることによって、財市場と労働市場に不完全競争的であり、かつ資本蓄積や技術変化を含むようなマクロ動学モデルを構築し、実質賃金と雇用の中期的な決定と変動を論じた。第二は、R&Dを含む内生的成長モデルに関する研究である。ローマ-は技術進歩がR&D活動によって内生的に決まるという考え方のもとづく内生的成長モデルを構築した。そのモデルの興味深い点は、資本財部門が不完全競争的であることによる資本財の過少生産と、研究開発部門での新知識の生産において既存の知識ストックの投入が無料であることによって生じる外部効果とによって、均衡成長と最適成長の乖離が起こる点である。本研究では、二つの点でローマ-のモデルを拡張した。第一に、ローマ-は恒常状態のみを分析しているが、本研究では移行過程の分析を行った。第二に、ローマ-のモデルは研究開発部門の生産関数がきわめて特殊であるため、規模効果が発生する。本研究では、研究開発部門の生産関数をより現実的な形にすることによって、規模効果が発生しないことを明らかにした。
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