平成七年度に予定した、労働者住宅を中心とした都市計画事業に関連する資料収集については、量的には、ほぼ予定通りに進行した。とくに、シテ・ナポレオンなど、いくつかの代表的な住宅の図面まで入手することができたのは大きな収穫だった。また、地方部の同様の試みについても、ル・クル-ゾのシュネデ-ル家による民間の労働者住宅建設の問題意識や実態がかなり明らかになってきた。それらによって、労働者住宅が一般の住宅と異なって、使用人の住居部分を持たず、装飾を排除した、非常に実質的なものだったことが確認できたのは、当り前のことのように思われるかもしれないが、有意義だったと考えられる。 しかし、資料収集に予想以上の時間がかかってしまったことも確かである。ことに、フランス国立図書館からの資料送付には、複写依頼から平均4ヶ月以上の時間がかかり、それだけ資料の解読を開始するのが遅れることになった。その結果、土木エンジニアの労働者住宅に関する経済的評価を確定することができず、平成七年度の課題として挙げた、この問題に関する論文の執筆は果せなかった。その代わりに、道路建設の国土改良に対する経済効果の19世紀における評価の考察を『道路投資の社会経済的評価』(予定)に寄稿した。
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