本研究の結論は、第1に、東独農業においては、市場経済への移行に伴う経営再編の基本的プロセスは終了したと言えること、但し各種の紛争はまだ引き続いていること、第2に、東独農業の再編の特徴は旧体制からの強い継承性を持っていることにあり、この特徴は当面維持されるということである。第2の点は旧ソ連東欧諸国、さらには中国などと大きく異なっている。 本研究は、上記の第2点の経営構造統計によって示すとともに、東独農業をめぐる紛争とその解決の内容を詳しく検討することによって示している。具体的には、土地争いおよび旧体制時代の債務の扱いという2つの紛争の裁判に関する報道や判決文の分析がそれである。 土地裁判では旧所有地の返還を求めるユンカーが敗訴し、従来の憲法裁判所判決などとあいまってLPG(旧東独農業生産協同組合)の権利継承者の経営権が保証された。 旧債務裁判でも、連邦憲法裁判所は、政府と議会に、通常の経営により返済が可能となる程度の救済を義務づけた。この判決は、「職業の自由」という基本的権利の保証の必要が論拠にされた。これは、「社会市場経済」と言われるドイツの社会経済体制の特徴の一端を示すものである。なぜならその論理は基本的人権という社会的規範を一定の限度内ではあるが市場経済原則の上位に置いているからである。
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