95年にはWTOが発効し、WTO体制と地域主義の関係、さらには、その中間に位置する開かれた地域主義がどのような意義を持つかが、重大な関心を集めている。本研究では、経済統合のマクロ経済的な効果を、APEC地域という具体的な事例を通じて定量的に明らかにすることを目的をする。また、こうした研究目的を達成する上で必要となる、適切な規模の世界経済モデルの構築を行う。 現在の世界各地における経済統合の動きは、主として80年代後半以降に生じてきたものであり、その原因や意義をめぐって、経済学者や、政策担当者の間で大きく評価が分かれている。しかし、従来のアプローチは主としてミクロ経済分析が主であり、マクロ経済的に分析したものは、多くない。本研究の特徴は、実物経済への影響を中心としたこれまでの研究蓄積を生かしながら、経済統合が実物経済のみならず、直接投資などの国際資本移動の側面にも考慮しながらその経済的影響を分析したことにある。 分析の結果、第1に、APEC域内での自由化は世界全体での経済厚生を高めることが分かった。第2に、しかし、分配面から見ると自由化の恩恵が全ての国に均等にゆきわたるわけではない。分配面から見ると一部の国を除き、概ね先進国には有利、一部の途上国には不利な結果となる。第3に、APEC地域において無条件MFNと条件付きMFNの比較を行ったところ、前者は世界経済の成長をより加速し、APEC域外国にネガティブな影響を与えることも小さかった。第4に、マクロ的に見るとウルグアイラウンド以降の貿易自由化が日本経済の需要面に及ぼした影響は限定的と考えられる。
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