平成8年度の研究計画は2つの部分から成っていた。第1の年金については、平成7年度に実施した実態調査をもとに企業年金による公的年金一部肩代わりの可能性を探り、現実的な改革のための条件について整理し、析出することを課題としてきた。そのために、(1)アメリカの個人退職勘定(IRA)型年金、(2)アメリカのカフェテリア型年金、(3)イギリスのコントラクト・アウト型年金、等について具体的に資料を収集・分析し、諸条件を吟味の上、日本的適応の仕方について検討を加えた。他方では、実態調査を通じてポスト・バブルのため企業年金の財務が急速に悪化して企業年金の補完能力に減退傾向が見られること、給付建てから拠出建てへの転換希望が高まりつつあることが確認できた。もし拠出建てに変換することになれば、給付額は低下するとしても従来に比してより確実な所得源としてむしろ再評価されるとの感触を得た。 第2の医療面では、日本で「マネジド・ケア」型の費用抑制策を採る可能性を探るために、医療現場における聞き取り調査とともに地域医療の観点から、市町村や県のレベルでの医療、福祉行政の問題点を担当者から聴取した。とくに医療費用の抑制の観点からいえば、定額型の診療報酬方式よりも、疾病の種類を分けた上で重度の疾病に重点的に保険資源を分配する方が患者サイドには受け入れられやすいと思われた。また地域の規模においては、従来より広い地域をカバーしてサービスを給付するのが効率的であろうとの判断を得た。以上の点から社会保障の構造調整については、従来の個別政策の分断的な立案方式を見直し、総合的、広域的な視点から政策の優先度と財源配分の基準づくりをおこなうのが適切と考えるに至った。
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