今年度は、当初研究計画にそって、電機・電子メーカーへの聞き取り調査を中心に課題に接近した。訪問した企業は、パソコン完成品メーカーA社(東京)B社(長野)および パソコン関連周辺機器の開発・メーカーC社(九州)等である。国内パソコンメーカーは、各社とも「利益なき繁忙」の時代を迎え、コストダウンと新製品開発を、製品寿命の短縮化圧力の下に、しのぎを削っている状況である。工場部門の雇用圧縮については、全体の販売数の増大とともに、顕著な動きは示されないが、部品メーカーについては、未調査であるが、相当な発注減により雇用調整が進行しているものと思われる。むしろ完成品メーカーの新製品開発部門では、新しい製品コンセプトに結びつくアイディアを実現する能力を持った人材を如何に採用・育成するかがポイントになっており、その点に関して、各社でのインタビュー調査では、貴重な識見を得ることが出来た。また、製品開発スタッフの労働インセンティブを高めるための各社の工夫についても知ることが出来た。 他方、マクロレベルでの労働市場政策については、まだら模様ながら有効求人倍率の一定の回復がみられるものの、全体の貴重は深刻である。本年(平成八年)に入ってから労働力調査開始以来の3.4%という高い完全失業率が記録され、その改善のためには雇用吸収力・競争力をともなった新規産業の育成が重要だとの政策認識が随所でみられている。もちろんドイツとの比較の観点からいえば、ABM(雇用創出施策)という労働市場政策の一手段の限界から、「雇用のための同盟」が本年一月末にドイツの労働組合や経営者団体の合意を得て、動き始めていることは注目に値する。社会的規制により国による違いはあるものの、企業の雇用圧縮傾向は強く、労働市場政策の意義と限界が日独両国で真剣に検討されなければならない事態に至っている。
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