アジアの発展途上国の多くは、基本的には依然農業国であるが、経済全体に占める農業部門の重要性が低落傾向にあり、一方、経済に占める工業部門(特に製造業)の重要性は過去10〜20年の間に益々高まりつつある。こうした変容は、「工業化」シフトを一層強めた開発政策の帰結であるが、同時にまた、本研究の事例国を含めこれらの国々は、工業化は自国の能力「だけ」では達成しがたいことも痛感してきた。これらの国々の一つの重大な弱点は、独自の技術開発能力の不足ないし未熟にあると言ってもよい。 発展途上国の殆どは、外資誘致にこうした弱点を打開する活路を見出そうとしてきた。結果として外国の投資家にとって極めて魅力的な政策がこれらの国々で採用され、一般的に、進出外国資本は地元の資本に比べて、各種の優遇を受けてきた。70年代初頭以降に東南アジア諸国で広く採用されたこうした政策は、経済の目立った改善をもたらした。ASEAN諸国と比較した場合、外資誘致ばかりか、そもそも工業化の推進にさほど熱意ある対応を示してこなかった南アジアの各国が一般に経済発展で遅れをとったのとは対照的であった。 工業部門の成長および外国投資の進出の2点から判定するならば、外資依存による輸出志向型成長戦略はかなりの成果を収めたと言ってよいだろう。しかし同時に問題点も確認できる。 第1に、地元のリソースを活用することへの関心が一般に不足していた。発展途上国は、低迷していた従前の経済を活性化するために新しい産業の導入が必要と考え、その政策は一定の成果を収めた。しかし新しい産業の導入が、既存の且つ潜在的能力を備えた地場産業を補完ないし統合する形で行われれば、さらに一層の前進を遂げることができただろうが、現実には経済構造の外資依存性が突出する傾向を示してきた。 これと関連した具体的問題として第2に、外資系企業による進出先地場企業との連携(下請け、部品調達など)構築が、発展途上国一般においてまだ不十分であり、一部の途上国では極めて希薄である。例えば、ASEAN諸国に進出した外資企業などは地場企業との連携が比較的進んでいるケースだが、スリランカなどはこうした連携は依然乏しい。このような外資への過度の依存、その結果として地場企業の成長と潜在能力とに対する配慮が後回しになること、これこそがASEAN諸国の最近の経済危機の伏線を張ったと言ってよいであろう。
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