研究概要 |
この間の研究は、第一次世界大戦前後、とりわけ戦後恐慌後における生活、なかんずく「階層別生活構造」の形成と生活の「価値化」といわれる構造転換、そのなかでの「中間層」以下の生活「協同化」の実相を追体験することと、こうした「生活の協同化」をすすめた中心的勢力としての産業組合運動について考察し、評価することが課題であった。 前者の課題については、「都市-農村共生型医療利用組合とその時代」(『阪南論集(社会科学編)』第31巻第1号)としてまとめた。生活変化の時代状況はけっして東京、大阪といった大都市に固有のことがらでもなく、地方都市においても、そこに色合の違いがあるとはいえども、同様の事態が進展しつつあった。さらに、この時期に六大都市から開始された都市社会事業は、1929年の救護法の制定と金解禁から日本経済が世界大恐慌に巻き込まれた大きな契機として、「本格的に」展開されることになる。後者の課題については、研究は進展していない。前期の状況のなかで、都市あるいは市街地における人々の生活の「協同化」も進展する。それは、地方都市ほどそうであるが、地域経済における資本形成の問題も含めて、「産業組合主義経済組織」形成という面を多分にもっていた。この理念は、営利を目的に運動し、諸種の弊害を伴う「資本主義的経済組織」に対抗しながら、「社会主義的経済組織」ではない、第三の道を選択しようとするものであったが、それが歴史的にどのような意味をもっていたかを今日的状況から再評価しなおすという課題があることが明らかになった。 研究作業としては、「日本無産者医療同盟関係史料」(Occasional paper,No.14、阪南大学産業経済研究所)の復刻作業も行った。
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