本研究の目的は、戦前期に南満州鉄道株式会社(満鉄)調査部等が実施した、中国華北地方の農村調査である『中国農村慣行調査』および『冀東地区農村実態調査』を分析し、近代中国農村社会の構造的特徴を整理し、中国革命後の農村社会の構造を「共同体」関係を中心に明らかにすることである。特に「人民公社」が解体し、「改革・開放経済」が進められている現代中国農村社会の状況を歴史的に考察するためにも、新中国で進められた「農業の集団化」の実態を明らかにし、合わせて関係試料の収集及び整理を行うことを中心課題とした。 そこで本年度は、まず第一に満鉄調査部の関係者へのインタビューを試みたが、中心的活動をしてきた関係者の多くは既に故人となっており、また生存する者ももはや高齢で充分に対応できない者もいたが、幸い複数の関係者から証言を得ることができた。第二に研究代表者が近年中国で実施した農村調査と事実関係の照合を図り、新中国における「農業の集団化」が、戦前期日本側調査機関による調査農村でいかに進行したか、その実態の一端を明らかにすることができた。第三に、『中国農村慣行調査』および『冀東地区農村実態調査』に掲載されている数値資料を中心にデーターベースの作成にとりかかった。 その結果、農民の結合を中心とした華北農村の構造的特質が、抗日運動や内戦期における共産党勢力の活動に大きな影響を持っており、そのことが農業生産力の低い華北農村社会において、農業の集団化という中国共産党の打ち出した農業政策に結びついたと仮説を立てることができた。次年度以降収集した資料をさらに分析し、中国での農村調査の結果と合わせて検討してみれば、上記の仮説に関する論証を深めることができると確信している。
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