本研究の目的は、戦前期に南満州鉄道株式会社(満鉄)調査部等が実施した、中国華北地方の農村調査である『中国農村慣行調査』および『冀東地区農村実態調査』を分析し、近代中国農村社会の構造的特徴を整理し、中国革命との構造的関係を明らかにすることである。〓小平が92歳という高齢ながら死亡したことは、香港返還を控えて一抹の不安を抱かせるのも事実である。本研究は今後の江沢民体制の行方を占う意味でも、「特徴ある社会主義建設」を目指す現代中国の農村社会の変動についての基礎研究として重要である。 研究期間の二年目である本年度では、昨年同様に研究代表者が近年中国で実施した農村調査と事実関係の照合を図り、新中国における農業の集団化が、戦前期日本側調査機関による調査農村でいかに進行したか、その実態の一端を明らかにすることができた。さらに、『中国農村慣行調査』および『冀東地区農村実態調査』に掲載されている数値資料を中心にデーターベースの作成を完了した。そして、旧中国農村社会に存在した農業慣行が、解放後の新しい社会体制の中で人的結合の中軸として機能したことを、「共同体」的関係の一つである畜力及び人力交換の慣行としての「搭套」と、農業の集団化における原初形態である互助組との関係を中心にまとめ「現代中国における農業の集団化と『共同体』と題して『宇都宮大学国際学部研究論集』第3号に掲載した。 その結果、農民の結合を中心として華北農村の「共同体」的関係を結合紐帯とする構造的特質が、抗日運動や内戦期の共産党勢力の活動に大きく影響し、さらに解放後も農業生産力の低い華北農村社会において、農業の集団化という中国共産党の農業政策に結びついたとの仮説を立証できた。研究期間の最終年度である次年度には、収集した資料をさらに分析し、上記の仮説に関する論証を深めることができると確信している。
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