この20年ほどの間に消費や市場に焦点を当てた研究が多く発表されるようになってきた。供給の歴史から需要の歴史、生産から消費への視野の転換である。本研究は日本におけるアパレル産業を当初目指したが、研究の進展にともないその基盤となった消費社会の進展を明らかにする必要性を感じ、欧米の消費社会成立についての議論を深めるための研究へと重点が変化した。もちろんアパレル産業の研究は今後の課題として行っていくつもりであるが、この研究の成果はイギリス経済史学会の叢書として出版する予定である。消費社会発展の研究は、一人社会経済史の分野の研究者にとどまらず、政治史、社会思想史、文化史などの研究者たちによって幅広く行われてきている。彼らは消費を一つのキーワードとして、近代史の大きな書き換えを行ってきている。それは伝統的な社会から近代商業社会への転換、あるいは伝統的な徳の社会から近代市民社会への転換を取り扱う研究であり、そこにデザインや衣料(アパレル)などが人々の行動を強く規定する新しい意識革命をもたらした時代についての多彩な研究でもある。これらの研究はまた世界史的な枠組みの中で経済社会の展開を考える必要性を提起しており、日本の工業化、商業化も例外ではない。
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