日本、台湾(中華民国)、大韓民国、中華人民共和国、香港の経済統計を大量に収集し、データベースを作成した。収集した統計書は主に工業生産統計と貿易統計であり、資料の欠落部分については、統計学的手法によって推計算出した。この統一的なデータにより、従来は植民地・半植民地として極めて停滞的に捉えられていたこの東アジア地域が、両大戦間期にすぐれてダイナミックな経済変動を遂げている事実を発掘しえた。これらの統計データを総合的に結合分析することによって、次のような研究成果を得た。 (1)両大戦間期の東アジア地域の貿易額の増加は極めて顕著であり、世界貿易総額に占める比率は1980年代以降のそれと同じほどであった。(2)ところが、この地域の中でも、中国と日本の植民地であった朝鮮・台湾の動向は対照的であり、前者の絶対的な減少と後者の爆発的な増加が併存していた。(3)しかしながら、そのことは直ちにそれらが各国の工業化に規定され比例しているわけではなく、どの指標によっても各国の工業化はすべて進展している。すなわち、ここから導き出される暫定的な結論は、第二次大戦前に東アジアで開始された工業化の動きは、決して一つのパターンに収束するものではなく異なった類型として把握すべきだということである。この国内市場中心に漸次発展する「中国型」と、国外市場に依拠しながら急速に発展する「朝鮮・台湾型」とを分けた内外の諸条件、またその傾向が第二次大戦後の各地域の工業のあり方をどのように規定したか、等が次の課題としてうかびあがってきた。
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