1.申請時点において設定していた研究目的に即して、研究成果を整理しておきたい。 (1)華北労工協会の実態の解明:強制的な労働力移動を可能にした労務統制機関である同協会については、95年8月に訪中した折に、当時の石門捕虜収容所跡をたずね、体験者の証言をきくとともに、研究者との研究交流を通じて史料収集および研究方法の錬磨をはかることができた。 (2)強制連行の経緯と労働現場における処遇の解明:港湾業界への中国人強制連行に関する史料収集をすすめて、その概要をまとめた。炭鉱や土木建築現場への連行と比較すると研究蓄積が浅い分野であるが、先鞭をつけることはできたと考える。労働現場における処遇については事業場報告書の分析をすすめた。 (3)戦時期大阪における統制経済の解明:大阪府立図書館の長期閉館という事態もあって、この課題に関する研究は次年度にもちこした。 (4)戦後における当該問題の処理の解明:アメリカ国立公文書館所蔵にかかる大阪築港BC級戦犯裁判史料の通読分析をすすめた。1948年10月の横浜法廷の記録から、起訴時点においては追及されていた中国人被連行者の虐殺責任が、判決直前になって免責された事実をつきとめることができた。 2.以上の研究によって得られた成果を「戦時期大阪への中国人強制連行-調査研究の現状と課題」と題した論文にまとめた。次年度は、上記(3)の課題にも十分配慮しながら、研究を一段と深める予定である。
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